第7話

「……まず風呂に入ろう。」




それなのに、火炉はこの場を濁し、私に背を向けて立ち上がる。



「火炉っ。」


「まだだ。」




そして縋るように手を差しのべた私の手を取って、美しく笑った。



「風呂から上がったら話そう。お前という存在の"意味"を。」




意味深な言い方。それは嫌な予感しか匂わせない。だけど火炉は、私の不安なんて構いはしないとばかりに嬉しそうに私を抱き上げた。




「お互い、ドロドロだ。」



火炉に言われて見てみれば、お互いの体も着物も、汗や血で汚れている。




「ふふ、そうですね。」




火炉が話してくれるというのなら、まずはお風呂に入ろう。



そして私は、聞かなければならない。自分の、存在の意味というのものを。





---、



「はぁ。」




すぐに月夜が呼ばれて、私だけがまずお風呂へと連れていかれた。どうやら火炉は後で来るようで。1人で入るお風呂は落ち着かない。





「どういうこと?」




花のような香りに包まれ、適温に保たれたお風呂に入ってもなお、混乱する頭。



私は、眠っていた?93年も?いや、記憶では、ついさっきまでは帝都にいたはず。




そして最後の、記憶は。



「っっ。」




鈍い、痛み。



刃物が自分の体を貫いて、私は確かに、死を覚悟したはず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る