第6話
だってこんなに、満足そうに笑っている。
「火炉。会いたかった。」
不意に零れ落ちた言葉は、思いのほか火炉を不快にさせてしまったみたい。
不愉快だとばかりに歪んだ表情に、息を呑んだ。
「俺は何度も言ったんだ。お前に目を覚ませとな。命令もした。懇願もした。しかしお前は答えることはなかった。」
静かに語る火炉の言葉は、なぜか耳が痛いほどの叫び声に聞こえた。自分はこんなにも私を求めたのに、なぜ目を覚まさなかったと、その叫びは私を責めている。
「それでも、愛していた。」
目を伏せた火炉。叫びは突然止まり、それは零れ落ちたように小さく、私の心に波紋をもたらした。
嗚呼。
「それでもお前を、捨てることはできなかった。」
また、火炉の弱弱しい抱擁。私のお腹を抱きしめる火炉が、子供のように甘える。
同時に火炉の角が私の体をかいて、それはまるで、仕返しをしているようだった。
角がもたらす痛み、抱擁が主張する甘え、そのどちらもが言っている。
私を、愛している、と。
「私は、なに?」
火炉の気持ちに触れ、心が躍る。だけどどこか頭の奥底で叫んでいたそれを解決しなければ、私は純粋に火炉の気持ちを受け取るわけにはいかない、そう思った。
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