第5話

火炉の燃えるように真っ赤な目が見開かれて、それは獲物を見つけた狼のように、細められる。




口からは涎がしたたり、爪先は肉をえぐらんと蠢いた。




ああ、この感覚、久しぶりだ。



……え?





「うっ、」



強い力と、鋭い痛み。それを感じた時には、火炉が私の首元にかみついていた。




まるで獣に食らわれているように、火炉は息荒く私をむさぼっている。そして手は、体は、私という女を食らおうと、動き続けていた。




うずいていた何かは確実な熱へと変化して火炉という雄を求める。



久しぶり、久しぶり。



ああやっと、火炉を、食らえる。





アタマの中のなにかがそう言った途端、体の奥を、火炉が刺し貫いた。



---、




「ん、ああ、は。」




何度も、何度も、何度も。意識が遠のいては、強い快感と痛みに引き戻された。




火炉は私を求め続け、私も火炉を求め続け、そうして私たちは何度も、一つになる。




記憶は確かに、帝都で止まっているのに、私の体は、心は、確実に火炉と同じ年月を過ごしていた。




「……は、和子。」



ため息のような声を合図に、火炉に口づけると、自分の血の味がする。ほらまた、思った。




久しぶりの味だと。





「少しは、楽になりましたか?」


「まだだ。」




胸に顔をうずめる火炉が、ため息交じりにそう言う。分かり切った嘘に、思わず笑みがこぼれた。

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