第4話
「火炉。」
名前を呼んだ私を、火炉は見上げようとした。だけどそれは敵わず、再び私のお腹に顔をうずめる。
ここまで、弱っているというのに。
頼る人が外にいるのに。
食べるものが、外にあるというのに。
この人は、こうまでして、私を求めている。
久しぶりに会えたという自覚はない。だって私は、眠っていたわけではないから。
最後の記憶は、帝都で周防がいて……。それだけ。
なぜだろう。
こんなに弱っている火炉を見ても、悲しくはない。そして逆に、嬉しくもなかった。
寂しくもないし、どうでもいいわけでもない。
一つ、感情を当てはめるとしたらそれは……。
【安心】
私は安心している。火炉がこんなに弱ってでも、私以外を食べていないことに。
私は安心している。火炉が変わらず、私を求めてくれていることを。
私は、安心している。変わらず火炉が、私を愛していることに。
そして、火炉が生きていてくれていることに、安心した。
不意に、寝床の上にある紙に気付いた。よく桜土が火炉に持ってきていたもの。それは王としての仕事内容が書かれていて、綺麗でしっかりした紙質だった。
それを手に取って、鎖骨を切るように当てれば、少しだけの痛みと共に、血がにじむ。
「火炉。」
紙では、体を深く切ることはできないけれど。
「どうぞ。」
きっかけを作ることは、できる。
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