第3話

突然現れた月夜は、自身の出した暗闇の前でひざまずいていた。だけどここでも、違和感。




私をまっすぐに見る優しい瞳。嬉しそうに緩んだ口元。


それらは同じなのに。



「私も少し、年を取りました。」


「え?」



月夜の言う通り、彼女は"成長"していた。




月夜は、混乱する私から火炉へと視線を向けて、その視線を、興味なさそうに床へと落とした。




「簡潔にご説明いたします。和子様が"眠られて"から、93年目の春となりました。その間も王は和子様のみを食され、飢えと戦っておられました。」



どういう、こと?



「この部屋は王が自ら封鎖されました。ここまで弱っておられますが、この封鎖を解くことのできる鬼はこの世に存在いたしません。私のみは、和子様のお世話を許され、こうして入室することができます。」



私が、寝ていた?




「和子様。」



混乱する頭、激しく脈打つ心臓。すべてが混乱しているのに、月夜の声だけはどこか、冷静に聞いていた。



月夜を見れば、その目がまっすぐに私を見つめている。



「いかが、なさいますか?」




その目は確実に、飼い犬として、主人の命令を待っていて。




「……食事をします。退室しなさい。」



「かしこまりました。」




"予想通り"の命令に、美しい鬼の娘へと進化した彼女は、可憐に笑って暗闇へと姿を消した。

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