第2話

「……火炉?」




眠っていたという自覚はなかった。目が覚めた後のけだるい感じもないし、微睡んでいるというわけでもない。



ただ、普通に、"意識が戻った"という感覚。




「和子。」



真っ先に目に入った火炉は憔悴しきっている。


それなのに火炉は、安心したように弱弱しく笑った。




「どう、したんですか?」



火炉の頬を撫でると、かさついたそれにギクリとした。火炉の肌は吸い付くように艶々していて、女の私が嫉妬するほどだった。



そんなもの、気にもしていないと、火炉が鼻で笑っていたのは記憶に新しい。




そんな火炉の頬は今、すごくかさついていて、火炉のぎこちない笑顔の理由を知らせる。



よく見れば唇はかさつき、ところどころ切れて血が見えている。目には、弱さしかなかった。




「和子、なのか?」




縋るような言葉にも、弱さ。



部屋を見渡せば、いつもの風景が広がっていた。ただ一つを除いては。



部屋の中央、唯一の出入り口であるそこが、すべてのものを焼き尽くしそうなほどの業火に包まれていた。



思わず目を見張った瞬間、お腹の辺りをふわりと抱きしめられる。




それは、もちろん火炉で。



だけど火炉は決して、私を優しく抱きしめたわけじゃない。




「弱っておられます。」


「月夜。」

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