第60話

「ほんとに、仲が良いね。」


「……おかげさまで。」




お母さんの嫌みともとれなくもない言葉に私は、消え入るような声でそう言うしかなかった。



何が楽しくて両親の前で、こんな。晒し者もいいところだ。



こうなったのも春さんが私をハメたせいだ!なんて、墓穴を掘っただけなのに責任転嫁も甚だしく私は、精一杯の睨みを春さんに向ける。



それを受け止めた春さんは、肩を諌めて笑った。




「だって。華ってば徹底して外では敬語に″春さん″じゃない?ちょっと意地悪してもいいかな、的な?」


「それとこれとは、話が、う、違います!」




春さんが言いたいことは分かる。どうにも私はそこのところはかなり気にする方らしくて、あの家を一歩出れば春さんに対して他人行儀になってしまうというか。




今のところ外では過剰なほど春さんからグイグイ来てくれるから恋人に見えるけど、やっぱり敬語で話さないと落ち着かないし、名前だって、呼び捨ては難しかったりする。




なんでだろ?家とか、プライベートな空間だと思うと普通に話せるはずなのに。




「それは彼女が見られることをきちんと意識してくれているからだと思いますよ。」



「ひい!」




突然現れたその人に、全員が息を飲んだと思う。悲鳴を挙げた私以外はもはや声も出ないほど驚いているし。

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