第59話

「ここ、知り合いが来るからごめんね。」




そう言って翼に手をひらりと振った。




「誰か来るんね?春くん。」



お母さんの質問に春さんはすぐには答えない。どうやら翼と無言の攻防を繰り返しているらしい。少しずつ、春さんの目が苛立ってきているような?




この場の平穏の為に翼には早く元の席に行ってもらいたいものだ。




「はぁ。」




どうやら、春さんの睨み?に押し負けたのか、ため息を吐いた翼が元の席にどかりと腰を下ろす。翼を無言で圧倒できるなんて、さすが春さんだなぁ。



それに、この咲さん特製のチーズケーキ。ベリーの甘酸っぱいジャムが少しだけついてて、それに付けて食べるのも絶品!



「んんー。おいひい。」


「華、俺にもちょうだい。」


「えー、一口だけですよ?」


「あとで俺の分もちょっとあげるから。」


「……なら、もしや、あの?」


「そうですよ。いつもの通りフルーツタルトで別味を堪能していただきたく存じます。」


「ははー!ありがたやー!」


「お礼はキスでいいよ。」


「なっ。そんなのはお礼には入りませんよ!」


「えー。いつものことじゃない?」


「いつもの、って。……ん?は!」




いつもの、やりとりだった。もちろんお礼にキスなんてしてないけど、このケーキのくだりはわりと頻繁に2人でふざけてやっている。



この回りの悲惨な状況に、乗せられて初めて気づく間抜けな私。

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