第58話

翼の真骨頂は、このメンタルの強さにある。どんなに邪険にされようと、鬱陶しがられようと、めげることなくアタックし続ける。




だから、学生時代はそれはもう経験豊富にお付き合いしていた。



高校だけで何人?翼の虜になった男の子は。付き合っていない子も含めると数えきれないと思う。




「でも、びっくりしました。華があの新城春さんと?お会いするまでは同姓同名と付き合ってるものとばかり思ってて。」




もじもじもじもじ、クネクネクネクネ。ワカメかというほど体をくねらせる翼の声は、ワンオクターブ高い気がする。



どうやら翼は、戦闘モード。その相手が私の彼氏だとしても、翼が突き進むと決めたからにはもう止まらない。






「とりあえず、座ったらどうかな?」


「え?」




春さんが翼にそう言った。心なしかその声は優しさを含んでるように感じて、胸が痛い。




「えーと、どこに。」




期待を込めた翼の言葉は、6人がけの椅子の春さんの隣を狙っているんだろう。




「さっき君が倒して義母さんが直してくれた椅子でしょ。」




呆れたような声音は、翼が元座っていた席を示しても、翼の足は迷いなく私とは反対側の春さんの隣へと向かっている。



途端、その空席に春さんは車のキーを置いて。

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