第57話
「えと、天馬翼さん。私の、うーんと、幼馴染みというか、友達というか。」
「ふーん。」
もう一度翼を見た春さん。その甘い瞳に見つめられて、翼がもじもじと手を後ろに回して照れている。
えーと、翼の突飛な行動には慣れているつもりだったけど、ちょっとこれは、理解できない。
春さんがかわさなかったら翼はあのまま春さんに抱きついていたってことで。私と春さんが恋人同士で同棲までしていると分かった上での行動なら、本当に正気を疑うレベルだと思う。
「Ne me regarde pas.」
春さんが呟いた。ん、なに?め、ぱす、は?
英語じゃないのは分かるけど。感じからいってフランス語かな?
「私の最愛って、僕は君の最愛になった覚えはないんだけどな。」
突き放すような言い方は、その言葉の通りの拒否を示していた。春さんがある種類の女性たちに一貫して貫いているそれは、無慈悲なほどに冷たい。
いつも嬉しそうに笑っている漆黒の瞳は冷たさを宿してまっすぐに翼を見つめていて、抱き締められ方でなんとなく、春さんが今不機嫌であることが分かる。
「すみません。憧れの人を前にして興奮してしまって。失礼いたしました。」
春さんの態度を受けても翼は気にする様子もなく深く頭を下げた。
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