第55話

「美味しそうに食べるよねぇ、相変わらず。」



「ん?」




振り向けば、カフェの扉の前に春さんが立っていた。




「お、春くん。」


「ごめんねぇ春くん。忙しいのに。」




そう言う両親に軽く会釈した春さんは、私の傍まで歩いてきて肩にそっと手を置いた。相変わらず、触れられるだけで全身が緊張する。春さんの大きな手から甘さが広がっているような気がして、間を埋めるかのように一口飲んだノンシュガーのカフェオレが甘く感じた。





「すみません。仕事で遅くなりまして。」


「いいんよ。私らが突然来たんやから。」


「でも、連絡いただいていたのに。」




……ん?




「連絡?」


「あ、これは内緒でしたね。」


「ふふ、そうよね。」




私の隣に座った春さんが小さく首を傾げた。いたずらっ子のような笑みにすべてが一気に分かった気がする。




「騙しましたね。」


「うーん、騙したというか。」


「黙っとっただけやんね?」


「あ、それだ。そうですね。」





表春おもてはるさんの登場ですか。そうですか。




「外面野郎め。」


「ふふ、暴言華、可愛いね。」


「なっ。からかわないでください!」




表春さんのキラキラスマイルだけでも厄介なのに、机に座った瞬間から私の太ももをさわさわさわさわ。



変態な春さん、変春へんはるも降臨している。

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