第53話

「まぁ、春くんを説明したら、自慢にしかならんたい。」




そう、そうなんですよお母さん。


春さんは存在が完璧過ぎる人で、一般人なのに雑誌にも取り上げられるほどの有名人だ。春さんが歩けば女性だけじゃなく男性までもが振り替えるし、そもそも私と付き合う前の浮き名は数えきれないほど。



そんな人がなんの奇跡か私と付き合っているなんて、久しぶりに会った翼には理解できないだろう。





「なーんか、納得いかないなー。だって華だよ?」




こういう、翼のリアクションはおかしくはないわけで。だってそう思ってもおかしくないほど私は昔、自分に自信がなかった。



「まぁまぁ、毒舌もそのくらいにせんね、翼。」


「……はーい。」




翼のこの物言いは我が家ではもはやテンプレで。みどりの他にこれをたしなめられるのは、お父さんだけ。今注意されたせいか、翼も不満そうながらもコーヒーを一口飲んで一息ついた。





「あの、華さん、そろそろいいかな?」


「あ、咲さん、すいません。」





気がつけば、メニューを持った咲さんが立っていて。まさかのこの残念な会話を聞かれていたと思うと顔に熱が一気に広がった。



「メニュー、要らないかな。いつものでいい?」


「あ、はい!すいません。」


「ケーキは。」


「ち」


「チーズケーキ、ね?」


「ふふ、はい。」


「かしこまりました。」

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