第50話

香坂咲こうさかさくさんの経営するカフェ【H】は、春さんの家から徒歩15分くらいのところにある。



何となくでお母さんたちが探し当てたにしては、少々遠い場所な気がしたけど、それはなにかの縁なのかも?なんて思ってしまう。



【H】は、大好きだ。店主の咲さんは素敵な人だし、ケーキもコーヒーも絶品。そして何より、私と春さんの思い出の場所でもある。




付き合いたての私たち。春さんは有名人だから、どこに行っても邪魔が入る。そんな時、個室もあるあのカフェを春さんに紹介されて、行ったのがきっかけ。



「あー、久しぶり。」




店の前で立っているだけでお腹がすいてきた。コーヒーの香ばしい香りを嗅ぐだけで、翼がいることによるストレスが和らいでいく。




ドアを開けると、聞きなれた鈴の音。喫茶店のお決まりの鈴なのに何でだろう、聞きあきない。




「ちょっとー。華遅い!」



「……。」




うん、まだまだ大丈夫だよ。私は心が広い。心が広い。落ち着いています。まだ。




「ごめん。仕事だったから。」



「どうせお皿運ぶだけでしょ?別に忙しい仕事でもないじゃん。」




腰に手を当てて相変わらずフルスイングで暴言を吐きまくる翼。



相変わらず綺麗。だけど、なんで、だろ。




「華に聞いて欲しい話がたくさんあるんだよね。座ってよ早くー。」



「ああ、うん。」




昔ほど、自分が嫌にならない。

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