第48話

別に恨んでいるわけじゃないけど、私は忘れることはできないのだと思う。



春さんという最高の恋人に出会えた今でも、暗く嫌な思い出は消えることはない。



人は忘れることのできる生き物だと思っていた。だけど、楽しい思い出や嬉しかったこと、何気ない日常を忘れることはあっても、嫌な思い出は決して頭の中から消えてくれないものだ。




頭の中にまとわりついているこの気持ちの悪い感情を、一刻も早く忘れたい、そう思うのに、ふとした時に思い出してしまう。




そんな記憶を私に植え付けたのはまさしく翼で。翼もそう思っていたからこそ、高校卒業とともに私たちは疎遠になってしまったのだと思っていた。




『なにそれ、私が非常識だって言いたいの?』




低く、唸るような声は、高校の時と変わっていない。




『翼ちゃん、なにを話しよるんね?』


『おばさん、私が突然来て迷惑だって華が言うの。驚かせたかっただけなのに。』




こうして、自分の方が私より優位に立とうとするのも、昔と全然変わっていなかった。




『ちょっと代わってくれる?華。』



「……ん?」



『突然来たのは悪かったけどね、翼ちゃんは華を驚かせたかっただけなんよ?そこは分かってあげなさい。』


「……そうだね。」



そして、周りはみんな、翼を守ろうとする。

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