第40話

『ちょっとおばさん。変わってくださいよー。』



『ああ、そうね。ごめんごめん。』




ごそごそと、電話口から音が聞こえる。



『華ー、久しぶりー。』



「……つばさ。久しぶり。」




電話越しなのに、声が上ずる。顔も、上手く笑えているかどうか分からない。




天馬翼てんまつばさ。漫画の主人公みたいな名前のこの子は、私の幼馴染。



男みたいな名前だけど、性別見間違えなんてありえないほどの美人。親友のみどりと私と並んで歩くと、かっこいい系のみどり、清純派の翼、真ん中のはずれな私、みたいな絵面になるから、子供の頃は嫌だったな。



といっても、みどりと翼は犬猿の仲で、一緒に歩くなんてほぼなかったんだけど。




それに、大学卒業後翼はフランスに留学してあっちで就職したからもう帰って来ないって聞いてた。正直なんでここにいるのかも分からない。



お互い連絡なんて取ってなかったし、幼馴染だからって、仲が良いとは限らないから。




『たまたま帰って来ててね。華の実家の前でばったり会ったからあたしも一緒に来ちゃったの。』


「はぁ、来ちゃったって、なにが?」




一応、私はまだ彼らの存在に気付いていないわけで。とぼけている間に帰ってくれないかな、なんて淡い期待をしてみる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る