第32話

「じゃー遠慮なく。」



「へ?わっ!」




春さんがニヤリと口角を上げたと思ったら、強く手を引かれた。どこにこんな細腕にパワーがあるのか。私のちょいぽちゃな体はあっさりとベッドに突っ伏してしまう。



「は、春さん?」



「んんー、これこれこれ!最高!」





春さんが私を横から抱き締めて顔をグリグリとすりつけてくる。あわわ、そ、そこの肉はっ、やめて!




「はー、なんか久しぶりだなー。」




突き飛ばしてやろうと思ったのに、春さんがそんな安心しきったような声を出すから。なにもできなくなってしまうじゃない。





「なんかさー、最近忙しすぎてさ、これから華の迎えに行けなくなるかも。ごめんね?」



「……そもそも、迎えはなくてもちゃんと帰れますよ。」



「でも、心配じゃない?」





よいしょ、なんて失礼な声を出して、春さんが私を横向きに座らせる。病院のベッドは少し高い。身長が低い私の足なんて普通にプラプラ。




「華が、帰って来なかったらって思ったら、不安だったんだ。」



「春さん。」





ばつが悪そうな表情。頬を触れば、春さんは甘えるようにすり寄った。




不安なこと、ツラいこと、悲しいこと。春さんは私にはこうして素直に話してくれる。これこそ、私にとっての、完璧な春さん。

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