第29話

「び、びっくり、したんですっ。春さんが目の前で、倒れて。」



「うん。ごめん。」



「びっくり、っっ、した、んです。三井さんが突然陰から現れてっ。」



「え?」



「忍者、かと、思いました。怖いし。春さんはっ、倒れてる、し。」



「はは。」





春さんを抱きしめる私の背後から、音もなく出現した三井さん。私は一生、あの恐怖を忘れはしないだろう。




「ごめんね、華。なんか自分でも焦ってたんだと思う。華の彼氏なんだから、完璧でなくちゃだめだって、思って。」



「……逆に、完璧から離れようとしていましたけど。」



「え?」





目を見開く春さんの、ほっぺをつねった。これくらいの罰はあってもいいでしょう?私はびっくりしたんだから。




私はわがままで、甘えた。だからこそ、こうして私のことを思ってしてくれたことを踏みにじろうとしている。




「私の中の完璧な春さんは、料理もできて仕事もできて、優しくて、彼氏としても完璧な人です。」



「うん、だからね。」




何か言おうとする春さんの口を手で押さえて、それ以上は言わせない。




「しかもすぐ疲れたって私に甘えてきたり、仕事したくないって駄々こねたり、私がいないとなにもできない、ちょっとエッチな人だったらもっと完璧です。」



「え。」



それこそ、新城春さんなんだと、私は思うから。

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