第26話

「ごめんね。外の車に奏を待たせてるのよ。」



「え、そうなんですか?」




頷いたゆいかさんは、チラリと春さんを見たけれど、私に小さく手を振って病室を出て行く。




「あ、そうそう。」



一瞬、姿を消したゆいかさんが、顔だけをのぞかせて。




「奏も心配してたわよ。"下に来てる"から、分かってると思うけど。」



「ああ。ありがと、母さん。」



「ん。じゃね、華。」




小さく手を振ったゆいかさん。思わず放心したまま手を振り返してしまう。



少女のように可愛い時もあれば、妖婦のように怪しい色気を放っている時もある。




私は人生で、あんなに美人で強い人を見たことがない。夏流さんや弓さんも近くはあるけど、やっぱりゆいかさんは別格に見えてしまう。




病室にいたのは一瞬だったのに、いなくなっただけで空気が軽くなった気がする。だけど、病室に残していった甘い香りは、いつまでも匂い続けられそうなほどいい匂い。うわ、私変態か。





「あー、やべー。すげーキレてた。」



「うーん。そう、ですね、多分。」




なんとなくはっきりと同意はできなかった。そりゃ、ゆいかさんは怒っていたけれど、倒れるまで自分の体調を放っておいた息子を心配しての怒り、に見えたから。



「うちは父さんより、母さんの方が怖いからな。」



「えー。」



これにははっきり同意しかねるな。あんなにやさしくて美人なゆいかさんが?ありえない。

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