第22話

「春が倒れたと聞いてね、急いで駆けつけたんだけど。」



「え、俺倒れたの?」




自分を指さす春さんの言葉に、ゆいかさんは一瞬目を見開いて、すべてを悟ったように、妖艶に微笑んだ。




「本人が倒れたことにも気づかないほどなんだから、さぞかし華さんをびっくりさせてしまったんでしょうね?」


「っっ。」




ゆいかさんの周りに、どす黒いなにかが渦巻いているように見える。何度目をこすってもそれははっきりと見えていて、助けを求めるように見た春さんはその禍々しいオーラを見て固まっていた。




「春。」




名前を呼んだだけ。それだけなのに、春さんはビクリと肩を跳ねさせた。うん、分かる分かる。ほんとに怖いもの。




「これが奏だったら、家出ものよね?」



「へい。」




クスリと笑ったゆいかさんに同意した鉄さんは、腕に抱える花束を春さんにちょっと乱暴に押し付ける。



そしてすぐさま振り返って私を見た。




ううう、何度見ても、直視できない。失礼だと分かっていても、鉄さんの顔が怖すぎて。




それでも、顔すら見ないのは失礼だと思って顔を上げれば、目の前が真っ白。



「へ?」



「華さんに、ケーキの土産です。」




次いで見えたのは、鉄さんの極悪の笑顔。笑った顔も怖いですね。

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