第19話

「バカすぎて笑えますよねぇ。」



「えーと、あの。」



「おや、あなたは笑えないんですか?この光景を見ても?」



「まぁ、あまり。」



「そうなんですか。変わっていますねぇ。」




倒れた春さんを受け止めた瞬間、この人はどこからともなく姿を現した。うん、文字通り、音もなく。そして今も、春さんが眠る病室に、音もなく入ってきた。




「アホだとは思ってたんですが、まさかこれほどとはね。」



さっきから暴言を吐き続ける三井壮士みついそうしさんは、春さんの親友。



新城組若頭、新城秋しんじょうあきさんの側近をしている。



その目は冷たく寝ている春さんを見つめているけど、この人なりに、春さんを心配しているのは分かるから。




「もう、帰っていいですかね?こいつと違って暇じゃないもので。」



「……はぁ。」




多分、多分ね,、心配してるんだと思うよ?うん。



本当に帰るつもりらしい三井さんは、ふと立ち止まって私に笑いかけた。



ドキリとする笑顔は、妖艶さを含んでいて、春さんの明るい笑顔とは真逆の危ない感じがする。



いや実際に、危ない人なんだけど。




「あなたもそろそろ気付いてくださいね。」


「え?」



三井さんからはいつも、壁を感じていた。付き合ってすぐの頃から感じていたそれは、今も変わらず立ちはだかり続けている。




「それの管理です。新城の人間は完璧に見えますが、それはまったくの嘘ですから。彼らを愛する資格のない者ほど、それに気づきにくい。」



「っっ。」

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