第16話

どう考えてもこんなの、完璧な彼氏の上で胡坐をかいているとしか思えないもの。



「至れり尽くせりで、愛されて、そこになにか不満があるなんて言うなら私ならぶん殴るね。」


「っっ。」




桐子さんの言葉は最もな話。こんなにも完璧な人が彼氏なのに、どこか違和感を覚えている私はひどいと思う。




だけど、冷たく私を見ていた桐子さんは、呆れたように笑った。




「だけどさ、海野が違うって思ってるんでしょ?私は海野の直感を信じるよ。」


「っっ、桐子さん。」


「ん。」





どうしても、"違う"気がしている。連日深まっていく違和感に、最近イライラしているのも事実。そしてなにより、完璧な春さんが、本当の春さんじゃない気がして。




「なんだか、別の人といるみたいなんです。」



それでも、桐子さんに頭を撫でられながら言葉尻がしぼんでいく。




「聞いてみれば?」


「へ?」



私の頭を撫でながら、桐子さんは頬杖をついたまま鼻で笑う。



「だから、新城さんに。変だけどどうしました?って。」



「変だけどって。」



「だって変なんでしょー?聞けばいいじゃない。私ならそのままにしとくけど。」



「え?」




聞き返した私に、桐子さんは遠い目を部屋のドアへ向ける。



「そんな恵まれた環境なら、私がお願いしたいくらいだし。」


「……すみません。」



臼井くん、もうちょっと桐子さんに優しくしてあげて。

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