第13話
この心の中にある大きな感情を、半端な俺には制御しきれない。
もし万が一暴走すれば、華を巻き込んでしまうと思うと怖くて仕方がなかった。
「ふん、ふ、ふ、ふ、ん。」
景色を眺めながら、思わず口ずさんだメロディーは、どこかで聞いたことのあるもの。
穏やかな時間にそぐわない真っ黒な自分を、華に会うまで消さないと。
あの、小さな家で過ごす華との時間を壊さないためにも、俺は本当の俺を見せてはいけないのだと思う。
華の前では、理想の俺でいたい。
仕事もできて、いつも余裕で、大人で、できる男。
華に見合うように。
あんなに可愛い華が、俺をずっと見てくれるように。
「頑張らないとな。」
どす黒い感情も、純粋すぎる愛も、華には重すぎるものだ。
華にはいつも、笑っていてほしい。だから、もっと頑張らないと。
華を悲しませる奴は、なるべく慎重に排除して、華を笑顔にできるよう、俺は完璧な彼氏でいなくちゃならない。
そうあるべきで、そうあるもの。
「華。」
呟いたその名前は、甘美な音を奏でて、俺の心を揺らす。心地よい、そして、痛い。
仕事を終わらせて、華に会いに行った。
その笑顔を見て、抱きしめてまた、どこかが痛んだ気がした。
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