第9話

side 春





「それで?」



「大したことはされていないようですが、フロントのルームサービス係が、華様指定の客を直接、華様に回しているようです。」



「大したことは?」



「……はい?」



かがみ。」


「は。」



副社長室からの眺めの良い景色を背に振り返れば、俺の第二秘書、鑑がおどおどとした表情でこちらを見つめている。




「大したことないってそれ、華が言ったのか?」



「い、いえ、そういうわけでは。」



「だよねぇ?」




思わず出た嘲笑に、鑑の肩がビクリと跳ねる。こいつは諜報活動はぴか一なんだけどなんせ気が弱い。だからこそ、人に見つからず最新の注意を払えるんだけど。




そのくせ突然大胆な行動に出たりするから、鑑を観察するはやめられないんだよな。面白い人間は、観察すれば勉強になる。やがてそれは俺の中に吸収されて、自分そのものになるんだ。




人の行動はもちろん、自分じゃ思いつかない。それはその人間が考え、作りだしたり行動するものなんだから当然。俺は少しでも、自分にない人の良さを吸収したい。それがやがて将来への糧に繋がるのだから。




別に向上心とかそんな大それたものじゃなく、ただ面白いっていう理由が大半なんだけどな。

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