第3話
桐子さんの愚痴というよりもはやノロケにしか聞こえないそれをBGMに、黙々と片づけを進めていると、ポケットの中にある従業員用の携帯が鳴った。
ああ、またか。
鳴るだけでそう思う。そして、桐子さんの愚痴以上に憂鬱にさせるそれに出なくていい方法はないか、毎度考えてしまう。
「うわー、また鳴ってる。」
「はぁ。」
私のため息の理由を知っている桐子さんに、同情の視線を向けられながらも私は、そっと通話ボタンを押した。
「海野さん、1563のお客様があなたを指名しているの。配膳をお願い。」
「……かしこまりました。」
要件だけを伝えて切られた電話。それなのになぜか毎回、棘を感じるのは気のせいではないと思う。
先ほどの電話は、フロントから。といっても、宿泊受付の方じゃなく、そのそばにあるルームサービス専用の電話を任されている人からだ。
だけどその人はそれをただ配膳を担当する事務所に伝えるだけで、持っていく従業員の手配まではしない。
例えお客様に持っていく従業員を指名されたとしてもこうして、わざわざ直接私にかけてくることはない、はず。
「嫌われてるねー。」
「はぁ。」
苦笑いの桐子さんに、私も苦笑い。どうやら私はこの人に嫌われているみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます