第3話

桐子さんの愚痴というよりもはやノロケにしか聞こえないそれをBGMに、黙々と片づけを進めていると、ポケットの中にある従業員用の携帯が鳴った。




ああ、またか。



鳴るだけでそう思う。そして、桐子さんの愚痴以上に憂鬱にさせるそれに出なくていい方法はないか、毎度考えてしまう。




「うわー、また鳴ってる。」


「はぁ。」



私のため息の理由を知っている桐子さんに、同情の視線を向けられながらも私は、そっと通話ボタンを押した。




「海野さん、1563のお客様があなたを指名しているの。配膳をお願い。」


「……かしこまりました。」




要件だけを伝えて切られた電話。それなのになぜか毎回、棘を感じるのは気のせいではないと思う。




先ほどの電話は、フロントから。といっても、宿泊受付の方じゃなく、そのそばにあるルームサービス専用の電話を任されている人からだ。




だけどその人はそれをただ配膳を担当する事務所に伝えるだけで、持っていく従業員の手配まではしない。



例えお客様に持っていく従業員を指名されたとしてもこうして、わざわざ直接私にかけてくることはない、はず。




「嫌われてるねー。」


「はぁ。」




苦笑いの桐子さんに、私も苦笑い。どうやら私はこの人に嫌われているみたい。

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