第66話

リョウの指があたしの首に触れる。ピクリと身動ぎするのを見逃さず、長い指はあたしの首を掴むように包み込む。


軽い圧迫感が襲い、不快感に顔を歪ませた。



「…………じゃあ、俺が毎回、三万でお前を買えば満足かよ」


リョウに、あたしを……。


「……売るよ」


〝 お遊戯〟の件で、あたしが男に怒られたことは無い。上手にできる。リョウも喜んでくれる。


「だって、リョウもそれが目的、でしょ?」


顔にかたい笑顔を貼り付ける。



「………もう一回言ってみろ」



鼻先が触れる距離までリョウの顔が近付く。


柔らかな前髪がふわりとあたしの額に落ちて、リョウの吐息が掛かる。



「………殺すよ」



ぐっと、指に力が込められると、息はできるのに喉が詰まって息苦しい。


透明な声、凍りのような瞳。


背筋に冷たい汗が流れて身体が強ばる。


この人は、だれ、だろう。


紛れもしない、リョウなのに。


あたしを拾って、ご飯を食べさせてくれて、膝を貸して、眠るまで一緒に居てくれる人、なのに。



「いい、よ」



あたしは視線をそらさずに口を開く。



「……リョウ、に、なら、殺されても、いいよ」



あたしを生かしたのはリョウだから。


あたしの命を預けているのは、リョウだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る