第63話

リョウの隣にちょこんと座る。


テレビもつけずにリョウはただタバコを吸っているので、黙るとリョウの呼吸の音しか聞こえない。


これ以上、リョウの機嫌が悪くなったら、追い返されてしまうかもしれない。


どうしたら………。


〝なにもしないでいると、エマの為にはならないよ〟


立てたひざをきゅっと守るように抱き締め、考えを纏めていれば、先程聞いたカナメの言葉が脳裏をよぎる。


………そうだ。


小さく息を吸って「ねえ、リョウ」と、吐く息とともに声を出した。すぐに、「ん」と、リョウはこちらを向く。



「あたしをさ、家政婦で雇ってくれない?ここに置いてもらう代わりに、お金とかいらないから」


咄嗟に思いついた事を口にすると、リョウはしばらく言葉を溜め「……必要ない」とだけ言った。


「え、でも…今日はたくさんたべちゃったよ?……ご飯は普段何も食べなくても平気だから、食費はかかんないけど、洋服とか、お風呂とか…あとは」


「そういう事じゃねーよ。なんで雇うとか、そんな話してんだよ」


あたしの言葉を遮るリョウ。あれ?また間違えた?と、心に微かな焦りが生まれる。


「だって、リョウはレオの雇い主でしょ?」


「……あいつとお前は違うだろ」


「…でも、」


「お前は、何もしなくていい」


リョウは終始穏やかな声色なのに、その言葉は投げやりだ。

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