第60話

こんなに沢山食べたの、何時ぶりだろう。


なんだかこの数日で、一年分の贅沢を貰った心地さえする。


食べ終えた食器を簡単に片して洗い物をすると、スポンジを触るのさえ久方ぶりだ。


少し前まで洗い物は日々の業務のひとつだったのに。



「疲れた?」



リョウは冷蔵庫から青くて細い瓶を取り出し、栓を抜くとそのまま口に含んだ。ラベルを見る限り、おそらく、お酒だろう。



「んーん、楽しかったよ」


「カナが悪いのは目付きだけ。……レオは口悪いが、根は良い奴だから」


「うん。二人とも〝良い人〟だった。すごく優しかった。レオとの買い物面白かったよ」


「あいつ、バカだからな」


「バカというか……空気を読まない?」


「バカなんだよ」




「宿ゲット〜!」



言ってる傍から呑気なレオがやって来たので、やっぱりレオはバカなのかなって少しだけ思った。



「良かったな」


「あ、やっば!ゴールキーパー!忘れた!」


「ゴールキーパー」


「俺のボールを……受け止める……」


「もういいから」


「リョウ様!」


「勝手に持って行け」



さんきゅー!と、レオはあたしがまだ開けたことの無いドアの向こう側に行き、暫くすると帰ってきた。


なんの話しだったんだろう。



「じゃ、またね〜」



嵐のような男は爽やかすぎる笑顔を振りまいて、帰っていった。本当に台風みたいで、レオが帰ると途端に部屋はしんと静まり返った。

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