第59話

「リョウ様〜ごちぃー!」


ダイニングキッチンで機嫌のいいレオを見て「……お前それ素面かよ」と、リョウはうんざりとしている。


「素面だよ〜ん単車持って帰れねーし」


……カナメに「酒飲ませろ」って駄々こねてたの誰だ。


全てを知っているあたしは何も言わない。



「つぅか、今日どこ泊まろ。んんー…」



レオはケータイの中の何かを物色しながら、部屋を出てしまった。リョウはその様子を気に留める様子もなく、徐に椅子に座って箸を持つので、その隣に座ってあたしも倣う。


「なんでレオって料理できるの?」


「……さぁ」


リョウも知らない様子なので、ふーん、と取り留めのない相槌を打つ。


あたしと似たような境遇なのかな、と、何となく思ったけれど、レオは高校にも通っていればバイクもケータイも持っている。


あたしとは似て非にもならない。


過ぎった考えは正解では無さそうなので、考えるのを止めた。


隣を見るとリョウは黙々と箸を進めていた。


初めてリョウが食べてるのを見たけど、ほっとする。


ちゃんとリョウも生きてるんだって、分かる。


……だけど、一つだけ疑問が。



「卵は割らないの?」


「……まあ、そうだな……」


「え?」


「割れねーんだよ」



割れないの?卵を?



「その顔で?」


「顔関係あるのかよ」



リョウは不服そうに眉を潜める。


まずい、失敗したかな。


何でもない、といそいで繕い、変わりに卵をリョウの皿に割入れると、彼の表情は元に戻るのでひと安心だ。

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