第57話

暫くしてあたしが落ち着いたころ、カナメに着信があり、そのまま彼は帰ることになった。



「エマ、酷な事を言うようだけど」



すき焼きを死守するレオを放って玄関まで見送ると、靴を鳴らすカナメは少し言い難そうに口を開いた。



「何もしないでここに居ても、エマの為にならない」


それは真意をつく言葉なので「うん」と素直に頷く。


「……ダラダラ居るくらいなら、出ていった方がいいぞ」


「…わかった」


「リョウは何もするなって言うだろうがな。カナメに言われたって言えば納得するだろ。……多分」


「あたしも…何かしなきゃって思ってたから」


「ん。すぐにとは言わないけど……それが良い」



うん、と、出した声は小さすぎてきっとカナメの耳には届かなかっただろう。



「それじゃ、また」


「ありがとう、カナメ。また会える?」


「あぁ、暇な時に来るよ」



最後に軽い挨拶を交わすと、バタン、と、重い音を鳴らしてドアが閉まる。


何故かしばらくその場から動けずに、ぼんやりと近くの壁に凭れた。



あたしに…何ができるかな。


……服、買ってもらったし、高そうなお肉も。


その前に、寝泊まりするこの場所もだよ。


……一体、あたしに何が返せるんだろう。


生きていくって決めたなら、生活出来るようにならないと。


一文無しのままじゃ何も出来ないから……バイトとか探せばいいのかな。


……どうやって探すんだろ。



自分の事なのに折り合いがつかず、頭がモヤモヤとしているとさっき閉まったばかりの扉が開いた。

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