第56話

胸の奥深くに閉じ込めていた懐かしさが込み上げ、鼻の奥がツンとした。


プツリと途切れたように、一筋が頬を伝う。決壊した涙腺からは、次々に涙がこぼれ落ちる。


「〜〜っ、美味しい、よぉ…」


とびきりに美味しいはずなのに、急に鼻が詰まって味が朧気になる。


ボロボロと壊れた様に涙が零れた。それでもお構い無しに箸を進めた。黄色い衣を纏うと熱さが半減して食べやすくて、止まらなかった。



「うん、ほら、もっと食べろ」


「しょうがねーな……特別だからな?」



二人は慰める代わりにあたしの皿に次々と肉を盛る。



お母さん、お父さん、お姉ちゃん………


会いたいよ、会えないよ。


会いたかったよ。会えなかったよ。


まだ、あたしはみんなに会えないみたい。


でも、でもね、やっと抜け出せたよ。


あの家から逃げ出して良かったよ。



カナメもレオも、会ってすぐのあたしに優しいの。



…リョウに拾われて、良かったよ。

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