第55話
レオは終始、桐箱を死守して鍋にお肉を入れている。鍋奉行というやつみたいだ。しかし、白いパック入りじゃない時点で絶対お高いお肉様の筈だ。
お肉を口に入れると、確信に変わる。
繊維が口の中で柔らかく解けていくその舌触りに感動さえ覚える。
「お、美味しい…!」
思わず口を抑えたのに感嘆の言葉が漏れ口角が上がる。
そうだ。美味しいものを食べると、人って笑うんだった。
その事実を思い出したのも、何年ぶりだろう。
「だろ?」
「だろ?じゃねーから。肉買ったのリョウだから」
「でも作ったの俺!」
「いちいちドヤ顔するな、餓鬼。ほら、エマ食べて」
「おいぃぃ!だからそれ!俺の!」
「ありがとう、カナメ」
こんな風に、何人かで鍋を囲むのも、いつ以来だろう。
こんな風に、当たり前に笑うのだって、いつ以来だろう。
……昔は〝普通〟だった当たり前のしあわせ。
冬になるとお母さんの実家から沢山お野菜が送ってくるからって、そんな日は決まって鍋にしようって。
お姉ちゃんはキムチ鍋、あたしはトマト鍋、いつも喧嘩して、お母さん、半々に作れる鍋をわざわざ買ってくれたなぁ。
あの温かさが当たり前だったんだけどなぁ。
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