第53話

「エマ」



元からリョウにあたしの事を聞いていたのだろう。鋭い眼光のままあたしの名前を呼ぶその人。



「えっと……カナ?」


「カナメだ。ずっと、エマに、礼を言いたかった」



……え?


お礼?何で?



その理由も分からず、言葉が詰まる。



「ありがとう。君がいてくれて、良かった」


「な、なんで……?」


「今はまだ分からなくていい。だけど、言わせて欲しい」



カナメは三つ指を丁寧に揃えて、ぺたりと額を床に付けた。所謂、土下座、という体制をとられ、


「本当に、ありがとう」


身体の奥底から声を振り絞るカナメ。



何が起きてるの?何かの感謝祭?


丁寧な所作で平伏す姿は冗談だとは到底思えない。


「あの、カナメ……お願い、顔上げて?あたし何もしてないよ?」


「いや、したんだ。エマのおかげなんだ」


「だから、あたしは何も……」


「エマが居てくれて、良かった」


は、話が通じない……!


どう言っても体制を解かないらしいカナメに、どうしていいのか分からない。


その細い指は中指だけに似つかわしくないゴツゴツしたシルバーのリングが鎮座しており、知的なイメージと掛け離れた意外性にも少しばかり驚く。

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