第51話

茶色の液体が鍋の中でぐらぐらと気泡を生み出していると、弾けた泡からなんとも言えない芳しい香りが鼻腔をくすぐる。



「いい匂いする」


「味見する?」



うん、と頷けばレオは小皿を渡した。


薄く盛られたそれを飲み干すと、今まで味わったことの無い深いコクが味覚を潤す。



「美味しい!どうやって作ったの?」


「内緒」



フフんと得意げに鼻を鳴らすレオに、ちょっと負かされた気分でもある。



「リョウにも作ったら喜ぶかな?」


「あいつ、あんま食わねーから意味無くね?」


「そうなの?」


でも、確かに夜も食べてるとこは見ないな。


あたしの隣でタバコ吸ってるし。


思い返していると、レオはニヤリと不敵な笑みを浮かべて見下ろした。



「エマちゃん、なぁんで作りたいの?」


「タダで置かせて貰うのが……申し訳なくて」


「リョウ、何かしろって?」


「んーん、何も言われてない」


「だったら、余計なことしない方が良くね」



余計なことなのか、これは。


そもそもあたしがここに居る時点で余計なことな気がする。



何も言い返せずにいると、扉の向こうで物音がした。


きっと、リョウだ。


頭に朝別れた人の顔が思い浮かび、すぐに駆けつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る