第32話

「……で。明日、俺は行けないから、一人付かせる」



リョウは行けない、と、脳内で情報を刷新させる。

それに、一人付かせるって、知らない人と一緒なんだ。


「……男の人?」と、ソファーに座るリョウを見上げれば「女のが良いか?」と、質問で返されてしまい、短く考えた。


女の人の方が緊張しなくて良いけれど、リョウに面倒を掛けるのもヤダ。


「男の人で大丈夫…です」


頷けば、リョウはあたしの頭をぐるりとひとなでした。


「昼の1時ぐらいにそいつが来る、うるせぇけど、良い奴だから」



リョウが良い奴、というなら、良い人なのだろう。


単純なあたしが「わかった」と言うと、リョウはあたしがここに来た時に着ていた服を渡してくれた。薄手のロンTと黒いミニスカートは綺麗に畳まれていた。


この家に来てからというもの、ずっとリョウのトレーナーをワンピース代わりに着ていたので、この服は処分されていると勝手に思い込んでいた。



これだけじゃ寒いから、と、リョウはグレーのパーカーと黒いマフラーを貸してくれた。


借りた服を上から羽織れば、ふわり、甘いムスクの香りがした。肌触りが滑らかなマフラーからもリョウの匂いがする。



香水は苦手だけど、この甘い香りは好き。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る