第24話

「毎日、この時間は掃除してるの。だから、掃除は上手だよ、家中、ぴかぴかにするの」


へらっと頬に笑顔を貼り付けて事実だけを言う。

男は無表情のまま「…3時だぞ」と呆れたように口を動かす。


失敗したかな、間違えたかな、頭をフル回転させて、不安を呑み込んで取り繕う。


「5時半までに、朝の掃除を終わらせて、朝ごはん作って、それから、7時に叔母さんが起きるから、コーヒーと…」


「そうか」


「寝坊したら、殴られる、の」


「痛ぇな」


「不味いご飯作ったら鍋のモノ全部掛けられる」


「…もういいよ」


「ご飯を作り直して、それに時間かかったらまた殴られて……」


「……」


静かにため息を落としたうつくしい男。

何を考えているのか、全く読めない男。


頭がおかしい、とか、思ったかな。


大人はいつもそう。あたしの話は聞くだけ。上辺だけであたしを諭して〝善良な家族〟の元へ返す。


……この人も、そんなつもりなのかな……?


家出少女を、あの鳥籠の家に送り届けて、その報酬を貰うつもりなんだ。あたしの身体で稼いだお金を。


なるほど、と。

この美しい男の考えの端に届いた気がした。


だからあたしは小さく笑った。

笑っているのに、指先が勝手に震えた。


着せてもらったトレーナーの裾を掴んで口を開く。



「ベッドは、嫌、だ。ベッドに寝て良いのは、知らない男の人が来る時だけ」


「…………そうか」


「〝お遊戯〟の相手をして、終わったらやっと寝れるの……キッチンの床に。だから、ベッドには寝たくない」

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