第23話

「……上手に、何を?」


ゆるりとした口調で男が訊ねる。びくり、指先が震えた。その震えが手、腕、肩、全身へ伝う。


……だめだ、怒られる。もう怒ってる、殴られる。


半ば無意識の内いつもの習慣が目を覚ますと、両手で脇を抱えて縮こまった。


殴られるのは痛くない、だけど頭にズンと響くから嫌だ。


目眩が酷くて立ち上がるのもやっとになるから、嫌だ。


早く落ち着かせないと、怒らせないようにしないと。



「……そ、掃除道具…どこ?」


「何で」


「雑巾、掃除しないと」


「しなくていい」



しかし、男は腕を組んだままじっとあたしを見下ろすだけ。


なんでしなくていいの?怒らないの?


あたしの不安は消えることなく募るばかりで、ぎゅう、と自分を守るように、脇腹に爪を立てた。



「じゃあ……今から、何をすればいいの」


「寝ろと言ってる」


「……寝れないよ」


「一緒に寝てやろうか」


「……いらないよ」


「じゃあ、大人しく寝ろ」


「……無理」


「……なんで?」



男は屈んで脱ぎ捨てたトレーナーを持ち上げら、あたしの腕を取ると万歳の体勢を取らせ、乱雑にトレーナーを被せた。


その間も中身の無い頭で必死に正解を探す。

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