第501話

龍綺様は無表情で男を見下ろす私に微笑むと、男に顔を向けた。



「僕はな?君殺してもなんの得もないんや。やからあっちの人に任せよ思ってる。やけどな?」



「ヒッ!」



龍綺様がどんな表情をしているのか、私には伺い知れ無い。


男の恐怖に歪んだ表情から察するに、殺気を醸し出しているのであろう事は理解できた。



「君が戻ってくれば、翠が手を汚す前に、僕が殺ってあげるわ。

・・・・大丈夫、苦しめてあげるからな?」



微笑んだらしき龍綺様は、楽しそうに声を弾ませて、ナイフを勢いよく引き抜いた。



「あがっ!」



男の悲鳴が上がり、血がドクドクと流れ出す。



龍綺様は扇子を口元にやり目を細めると、組員に視線を滑らせた。



「・・・連れてき。早よせな出血で死んでしまうよ?」



・・・自分が悪化させたくせに。



私と組員のそんな心の声も聞こえるはずもなく、組員たちは無言で男とケイシーを連れて部屋を出て行った。



男の穢らわしい血を見て、自己嫌悪に陥った。



「・・・危うく、ゆいか様との約束を破ってしまうところでした。」



そんな私に、龍綺様が笑みを浮かべた。



「ええ。そのために僕がいるんやから。

ゆいかからメールが来てた。


『闇に囚われると、自我を保てない。


彼に大切な人が出来るまでは、龍綺さんが彼を止める存在であってあげて欲しい。』



ってな?僕の妹はホント、可愛らしいこと言うわ。」



龍綺様はクスクスと笑いながらゆっくりと扇子を揺らせた。



「・・・はい。私も彼女の様な方がパートナーであればいいなと、そう思います。」



「おや、ゆいかはだめやで?ホンマに抗争になりかねん。」



龍綺様の見開いた目に、視線を向けた。



「・・・大丈夫です、多分。」



「おいおい、ホンマたのむよ?」



困った表情の龍綺様の困っていない様な声音に、クスリと笑みが漏れた。

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