第498話

「翠の笑顔は極上やからなぁ。

隼人義兄さんも言うてたよ?」



「またそんな呼び方をして・・・

この間修羅場になったのをお忘れですか?」



そんな呼び方をした龍綺様に隼人様が素早い右フックを繰り出したのだ。



「・・・いいやないか。おらん時ならそう呼んでも。」



龍綺様が悪戯っぽく微笑む。



「今回はわざわざロシアまで飛んで戴いたんですから、余り刺激なさらないでください。」



今回は隼人様が奏様の命令で奔走して下さったのだ。



それなのに龍綺様は目を爛々と輝かせる。



「ほんならお礼しに行かな?来月辺りどうやろか?」



「・・・仕事が詰まっておりますので。」



何かと理由をつけて東へ行こうとする龍綺様を如何にしてこちらに留めるか、それが最近の私の悩みだ。



ため息をついた私が視線を滑らせると、かち合った憎悪を宿した目。



「アンドロ、お前はその男を選ぶのか?」



男の嘲笑をも含んだ言葉に、私の心が闇に染まる。



「黙れ。お前の口から出るのは虫酸が走る言葉ばかりだ。

確かに私は龍綺様を【選ぶ】

しかしそれは私が私らしく生きるためだ。十代の少女でもあるまいし、全てを恋愛に持ち込まれては困る。

それに私は・・・想い想われる最高の関係を築ける女性と出逢いたい。」



言葉を吐き出して目を伏せた。



ゆいか様のような、私自身を見て下さる女性に出逢いたいのだ。



すると男はそんな私を鼻で笑う。

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