第264話

座り込む綾に弘人さんが歩み寄る。



顔をあげた綾の顎に手を添えると、にっこり微笑んだ。



「君さ、気に入っちゃった♪」



「・・・は?」



首を傾げた綾に、弘人さんは笑顔を深めた。



「頂点への執念。ねじ曲がった根性?優雅な身のこなし。そして男への対応の仕方。うん、いいね、夜向き。

君、うちの店来ない?No.目指せると思うよ?」



・・・【黒蝶】で働かせる気か?



「は、笑わせないで。」



女が断ると、弘人さんはクスリと笑う。



「君、もう終わりでしょ?多分もう拾ってくれる企業はないよ?

なら、【夜】で頂点を目指せばいいじゃない?

それにさ、」



フロアの学生に聞こえない程の大きさで呟いた。



「やりすぎちゃうと、俺の女神に怒られちゃうから、拾ってあげるっ!」



そう言って、女たちの誰もが頬を染める笑顔を向けた。



綾は、ガックリとうなだれる。



「はぁ、あの女は関係ないけど、関係はあったわけだ。」



そう言った綾に、弘人さんは無言で笑顔を深めるだけだった。



「いいわ、拾われてあげる。どうせ、私にはもうなにも無いもの。」



そう言った綾は連絡先を弘人さんに渡すと、プライドからか、しっかりと前を向いて店内を後にした。



女の出て行った扉を見ながら弘人さんに話しかける。



「・・・いいんすか、あれで。」



俺の低い声に、弘人さんは微笑む。



「彼女だけは票のために男と寝てないんだよねぇ?才能はあると思うよ?それに、これ以上すると、ゆいかちゃんに叱られそうだから。」



そう言った弘人さんから、垂れ下がった耳としっぽが見えた。



「ふはっ、【烏の子】も形無しですね?」



「ふふ、そうだねぇ・・・でも、」



弘人さんの目が光る。



「他の子も、『ギリギリ』までイって貰うよ?」



そう言った弘人さんは口元に指を当てて、妖艶に微笑んだ。

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