第263話

「ちょっ!み、みんな、動画なんか消してよ!冗談だって冗談!」



必死に取り繕うとしている綾を前に、生徒たちはヒソヒソと軽蔑の視線を送っている。



「ゆいかちゃんも可哀想だよねぇ?だって綾ちゃんの存在知ったの昨日だよ~?

゛か弱き妊婦さん゛なのにいきなり知らない人にトイレの水をかけられてね?風邪が悪化して倒れちゃったんだ!

お母さんになってからも大学で学びたいって一所懸命両立してるのに『目障り』だって!怖いよねぇ~?

同じ女の子なのにねぇ?」



歌のお兄さんみたいに店内の学生たちに語りかける弘人さんに、学生たちは思い思いに応える。



『え!マジ?ゆいかちゃん可哀想!』



『ひっでえな。女としてどうよ?』



『だから婚約者に捨てられんじゃん?』



ヒソヒソと、それでいて聞こえるように放たれた罵声は、美作綾に突き刺さる。



表情を歪めた女に関わったら不味いと踏んだのか、他の3人の取り巻きは、



「綾先輩、それはないですって、ね?」



「う、うん!私たちは関係ないですしね?」



「ま、まひる先輩?この後合コンでしょ?」



「あ、そうだねー、じゃあ、綾先輩!私たち合コンあるんで、また!」





逃げるように店をあとにした女たちは、ソッコーで綾を切り捨てた。



女ってのは・・・



俺はため息を吐いて美作綾を見つめる。



明日からこの女を見ることはないんだろうな。



そう思っていたら彼女は深いため息をついた。



「あ゛ーーーー!!!」



ガックリと座り込んだと思ったらいきなり大声で叫んだ美作綾は、あきらめた様にあぐらをかく。



若干下着が見えそうなのを、弘人さんが覗こうとしている。



「ばっかみたい。完全に罠にハマったわ。もうおしまいだわ、私。」



乾いた笑いを漏らした彼女の頬に涙が伝う。

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