第62話

社長室前の秘書室を通ると、結城が無表情で近付いてきた。



こいつは外見は爽やかなメガネだけど、こう見えて白虎傘下で一番デカい族の総長だった。



こいつの忠誠はこれまで奏に向けられていたけど、最近はゆいかちゃんに心酔してしまい、今じゃ神扱い。



この会社でのゆいかちゃんへの嫌がらせなんかは全て、こいつがゆいかちゃんの知らないところでもみ消す上、数倍にして仕返しをするもんだから、今じゃ社員の中じゃ、『ゆいかちゃんに何かすると結城が出る』なんて都市伝説みたいな現象が囁かれている。



いつもニコニコヘラヘラしているこいつが無表情なのは、かなりヤバい。



ぎこちなく笑顔を作り、結城に口を開く。



「だ、大丈夫。俺が処理したから~。」



そう言った俺に、結城がピクリとも笑わずに言う。



「ちゃんと辞めたくなるほど辱めたんですか?」



「あ、あのさあ、妻のゆいかちゃん無視して奏の女になろうとしたあの女に問題はあるけど、一応うちは上申は許可してる訳だから。」



ゆいかちゃんをナメてたとはいえ、あの女は合法的に近付いてきた。なのに・・・




「ゆいか様をナメた時点で死に値しますが。」



真顔で言うこいつを放っといたら、あの女、再就職先もなさそう。



「・・・あの女はどうせ辞める。さっき俺の誘いに頬染めてたしな。ゆいかちゃんが大学で忙しいから、少しでも彼女のサポートをしてやるんだろ?あんな女に構ってる暇があったら少しでも仕事をこなせ。」



「・・・・はい。」



諦めた様にため息をついた結城に、俺がため息つきてえよ、と内心毒づくと、社長室のドアをノックする。



「・・・入れ。」



・・・明らかに機嫌が悪い。



今度こそため息を吐いて扉を開いた。

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