第61話

パートナーというより、抱いて下さいと言っている様な潤んだ目は、奏を見上げている。



奏はその目を見て、眉間に皺を寄せると、女を完全に無視してエレベーターへ歩き出した。



「!!社長っ!」



女が奏の腕を掴もうとするのを、間一髪で体を割り入れ、止めた。



(あぶっ!どうしてくれんの?今日の奏の機嫌最悪なのに!)



顔をヒクつかせ、内心悪態をつきながらも、平静を顔に張り付ける。




「申し訳ありませんが、企画書は後ほど返事をお返しいたします。

それと、上申は秘書室に提出していただかなければ困ります。

社長もお暇ではありませんので。」



そう言うと女は不満そうに此方を見る。



横目で、結城と奏がエレベーターに乗り込むのを確認すると、内心で安堵のため息が漏れた。



「ちょっと!私を目に入れて貰えれば公私共にパートナーになれたかも知れないのに。ただの腰巾着が邪魔してんじゃないわよ!」



明らかに態度を変えた女に思わず苦笑が漏れた。


この様な自意識過剰な女は一度その鼻っ面をへし折ってやれば・・・



俺はおもむろに、企画書をパラパラとめくり、ざっと目を通した。



「・・・この様な企画書では、社長の記憶にすら残りませんよ?」



この程度の企画書ならゆいかちゃんが目を瞑っても書ける。




俺の小馬鹿にした態度に、女は顔を歪める。



「そんな訳ないでしょ!?もっとよく見て!」



尚も食い下がる女を鼻で笑う。



「それに・・・社長に近付く、『本当の理由』も、本人にバレてらっしゃいますので。クビにならなかっただけでもよしとして下さい。」



俺がそう言うと、女は動揺に目を泳がせた。


この女の目的は、仕事ではなく、奏自身だろう。



俺は動揺に目を泳がせる女に近付いて耳元へ囁きかける。



「抱くだけでいいならいつでも来い。俺が相手してやるよ。」



そう囁き、侮蔑の目で女を見る。



何も言わない女を残して、踵を返した。



これで俺に抱かれに来るようなら、あの女はこの会社では長くないだろう。



この会社は先鋭の集まり。


その程度なら蹴落とされる。


近い将来が予測できて、ほくそ笑んだ。

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