第60話

side 隼人



不機嫌MAXの奏と共に会社のエントランスを歩く。



奏がいるだけで、この空間は静寂に包まれる。




カツカツカツ・・・




俺たちだけの足音が響きわたるフロアはいつものこと。



しかし、今日は違った。




「あ、あの、社長!」



女の子独特の高い声が奏を呼び止め、ヤバいと冷や汗が背中を流れた。



見れば、気の強そうな女が、高いヒールをカツカツといわせ、此方に頬を染めて歩いてくる。



奏を見れば、その目だけで凍り付きそうな極寒の眼差しを送っている。



女は俺たちの前まで来ると、書類を突き出した。


とりあえず、それを受け取り、ペラペラとめくる。



書類は何かの企画書の様だった。



「・・・これが、何か?」



女は、その欲情にまみれた目で、奏を見ると、艶のある声を吐き出す。



「あの、それを見ていただければ、私の仕事ぶりが分かるはずです。なので、私をパートナーにして下さい。」



んー、こういう野心のある女は嫌いじゃない。



奏も然り。



実際に社長室へ上申した書類は全て奏が目を通す。



男女関係無くね。



奏が認めた人間は海外事業部か、営業部に回される。



こういう風に持ち込む輩もまあまあいるし。



でも、奏のパートナーなんかまず無理だ。



だってそれ俺だし?



奏が俺以上の才覚だと判断すればどうか分からないが、どちらにしろこの女は企画書を見るまでもない。

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