第59話

捨てた両親、それでも、血を分けた肉親。



もう未練は無くともこうしてやり切れない気持ちは始終付き纏う。



そんな思いをかき消すように、奏の服の裾を握る。



それに気付いて、奏はより私の肩を抱いている手に力を込める。



「お待たせ~。」



再び人数分コーヒーを入れてきた弘人が部屋に入ってきて、隼人たちが到着するまで、暫しのくつろぎタイム。



奏はコーヒーには手を付けず、私を膝の間に座らせると、首筋に顔を埋めて寝てしまった。



その途端、弘人が私に問いかける。



「ゆいかちゃんはさぁ、この子とどうなったわけ?」



その口振りに、咲さんに対する若干の棘が伺えて、私は違和感に首を傾げる。



「友達になったよ?さっき真琴にもメールしたし。」



「メール?」



首を傾げる弘人に、私は小さく頷く。



「ん。『友達できました。』って。」



「は?それだけ!?」



「?? それだけ。」



今度は私が首を傾げてそう言うと、その場のみんなが笑いを堪えているのが見て取れた。



「・・・ゆいか、『冷やし中華始めました』みたいになってんぞ。

多分真琴さんの頭、ハテナでいっぱいだな。」



蓮がそう言うと、苦笑いの咲さん以外が盛大に笑い出した。



私がそんなみんなにムクレていると、




「・・・ちっ。」



首筋から奏の盛大な舌打ちが聞こえ、その場がシンと静まりかえる。



なんだか青い顔のみんなを睨みつけながら、私は2杯目のコーヒーを煽った。

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