第58話
「・・・それで?どうすんだ?」
「あ?待っとけ、今拉致ってる。」
「「・・・は?」」
完全な説明不足の奏の穏やかではない言葉に、お兄ちゃんと蓮が口をパカンと開けて間抜けな声を出した。
「「ぶっ!」」
そんなレアな光景に、私と氷上くんは同時に吹き出してしまった。
「あははは!」「クックックッ」
「・・・はぁ。」
爆笑する私たちの耳に、蓮のため息が聞こえ、私は笑いを押さえながらも口を開いた。
「ははっ、あー、笑った。
あのね?咲さんの弟さんが危なくないように、高校から隼人が連れてきてくれるの。それを奏がちょっと物騒な言い方をしただけ。」
「ああ、そういうことか。それなら白石に頼んだのに。」
「え?蓮知ってたの?」
「ああ。学校に入学したやつは一応調べるからな。
それに・・・」
蓮は咲さんをチラリと見た後、後を続けた。
「香坂雅人は一応【陰】の敵にあたる白虎の本拠地だってのを意識してたみたいでな。
最近【陰】が白虎に喧嘩売ってたし。
科も普通科だし、この女のことがなけりゃ忘れてただろうなってくらい大人しい奴だった。」
「そう、なんだ。ならなんで【陰】の圏内の高校に入らなかったんだろう?」
私は首を傾げた。
だって、弟さんは咲さんと柊光樹が好きあって付き合っていると思っていたはず。なのになんで?
私がそう思っていると、疑問に答えてくれたのは咲さんだった。
「お父さんがそこに入れって言ったんです。多分光樹が弟を【陰】に入れるのを危惧してでしょうね。それだけ、お父さんは光樹のことを警戒していましたから。」
悲しそうに言った咲さんは、目を床に移す。
その瞬間、頬を涙が伝った。
「・・・そっか。」
彼女たちは、父親の大きな愛に包まれてたんだな。
(私とは大違いだ)
そんな自嘲的な笑みが漏れた。
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