第57話

「あ?【陰】を潰して柊を傘下に加える。時期が早まっただけだ。」



めんどくさそうに言った奏は、タバコを灰皿に押しつける。



「そうじゃなくて!なんでこの女が!」



そう言った蓮は、私の護衛のみんなの中でも、咲さんを一番警戒していた。



「蓮、私がお願いしてここに連れてきたの。友達になりたくてね?」



そう言った私に、蓮もお兄ちゃんも目を見開いている。



なんだか友達になりたい、なんて小学生みたいだな、と思って若干私の頬が朱に染まる。



頬を染める私の頭を奏は優しげに微笑んで撫でる。



蓮は、そんな私たちの様子を呆然と見ていたけど、苦しそうにその顔を歪めた。



「・・・この『女』は、お前を傷つけないか?」



震える声で私にそう言った蓮は、私を心配する気持ちで溢れていて、スゴく嬉しくなった。



「ん。大丈夫だよ。この『女の子』は大丈夫。」



これまで私を傷つけてきた『女』という生き物に、蓮は特に神経質になっていた。


特に咲さんは、柊光樹の彼女ということで、蓮の警戒は相当なものだった。




また、私に傷をつける『女』ではないのか、と。




蓮も奏とは種類が違えど女性不信になってしまったのだと思う。



それは紛れもなく、私のせいで。



その事実に心臓が軋んだ音を立てる。



すると引かれる私の髪。



振り返ると、奏が穏やかな顔で私を見ていて。



「あいつは自分で乗り越えなきゃいけねえ。今あいつが感じている【壁】は、お前のせいじゃない。あいつ自身の問題だ。これを乗り越えれば・・・男として一皮剥ける。

・・・・惚れんなよ。」



最後の低い声に私は苦笑いを返した。



蓮は私の言葉に安心したのか、咲さんとは反対側のソファーにお兄ちゃんと腰掛けた。



その後ろに氷上くんが立って控える。



弘人が再びコーヒーを入れに席を立ち、部屋を出て行った。



咲さんは蓮からの鋭い視線にビクついてソファーの上で小さくなっている。



「蓮・・・睨まないの。」



「・・・ちっ。」



視線を外した蓮は、奏にそのまま視線を移した。

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