第53話

「ゆいかさん、さっきの人は、大丈夫でしょうか・・・。」



私に促されるまま、ソファーに腰掛けながら、咲さんは心配そうに呟く。



「うーん。奏?どう思う?」




「あ?ほっとけ。女切れじゃね?」



絶対にそんな雰囲気じゃなかったけど、奏の目が、触れてやるなと言っているようで。




「・・・弘人だもんね。」



私は奏に合わせる。



咲さんは納得していない様だけど、さりげなく話題を変えた。




「そういえば、弟さんはいくつなの?」



「あ、17才で高2です。林道高校(りんどうこうこう)の。」



「・・・は?林道?!」



林道高校は、私たちの母校。



今更名前が出てきて申し訳ないけど。



「・・・え?知ってるんですか?」



「知ってるもなにも・・・卒業生。」



「え!?」



私と咲さんの驚きに見開いた目が交差する。



「・・・おい。浮気か?」



空気を読まない奏が、眉間に皺を寄せて私の髪を軽く引く。



「ちょっと、それどころじゃないから。」



「・・・お前、最近俺の扱い雑じゃね?」




驚きで若干立ち上がっている私が、奏の顔の前に手を立てて遮ると、奏は眉を下げて、子犬の様に私を見上げる。



その可愛さに、ポケットの携帯を手にしかけるも、理性を働かせ、自分を律する。

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