第52話

奏はそんな弘人に興味を失ったようで、その鋭い目を部屋の隅に立っている氷上くんへと視線を滑らせた。



「・・・氷上。」



「は。」



奏の呼びかけに返事をした氷上くんは、私たちの目の前まで素早く移動した。



「蓮は。」



「は。総長は今日は倉庫にいらっしゃいます。」




「親の柊は組で相手するが、【陰】はお前等が潰すことになる。

どうやら時期を早めなきゃいけねえみてえだから、今すぐ蓮と昴を呼べ。」



「は。失礼します。」



氷上くんは丁寧に頭を下げると、携帯を耳に当てて部屋の隅へ行ってしまった。




そこでふと気付く。



「・・・あ、ごめん。そこ、座って?」



咲さんがまだ立ったまま、なぜか弘人が出て行った扉を見ていたのを、座るように促す。




さっきの明里さんたちが、なんだか気持ちが悪くて、軽い発作が出てしまった。


 

何て言うんだろう・・・




外見とか、そういうことじゃなくて、彼女たちからは気持ちの悪い、人工的な悪意しか感じられなかった。




純な悪意だけなら、まりかで慣れてる。




慣れるのもどうかと思うけど。




なんて言うか、彼女たち自身には、まるで意志がない感じで。



人に操られるまま、咲さんを人間扱いしていない。



人に言われるまま、咲さんを憎悪する。



自分たちの意志すらないその感情は、きっと『加減』を知らない。

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