第51話

side ゆいか



奏の殺気に震える咲さんを見る。



きっと彼女は裏切らない。



奏の脅しにもひるまない彼女の強い目を見て確信する。




「そうと決まれば、おい、お前の弟は今なにしてる?」



奏が女の人にこれだけ話しかけるのは珍しい。



なんだかんだいって、この子を認めているらしかった。



嬉しいけれどやっぱり嫉妬してしまう。




「・・・え?が、学校ですけど・・・」



そんな私の葛藤を余所に、話は続く。



奏はそれだけ聞くと、もう咲さんをその目に写さなくなった。




「・・・ゆいか。」



奏は私の嫉妬を見透かしている様に、頬にキスを落とし、嬉しそうに微笑んだ。



「妬くなよ。もう終わったから。」



「・・・ん。」



奏は更に私を強く抱きしめた後、携帯を取り出し耳に当てた。




「・・・隼人か。今すぐ香坂雅人を拉致ってカフェに連れてこい。」




それだけ言って電話を切った。



拉致は犯罪です。



そういう目で見る私を見下ろすと、奏はニヤリと笑う。




「隔離だ。あの馬鹿どもはまだ此方の動きに気付いてねえからな。」



「連れてきて、とか言い方あるでしょ?」



そんな時、弘人が呆然と此方を見ているのが目に入った。




「・・・弘人?」



奏も訝しげに弘人を見る。




「・・・雅、人?」




弘人は咲さんの弟の名前を何度も呼んでいたけど、ハッと我に返り、瞳を揺らした。



「な、なんでもないよ。コーヒー容れようか。」



そう言って慌ただしく部屋を出て行った。




「なんだあいつ・・・」



訝しげに言う奏に頷く。



「なんだか、ヒドく悲しそうだった。」



もしかしたら、彼の過去に関係があるのかも知れない。



弘人が出て行った扉を見つめて、なぜかそう思った。

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