第35話

「私たち、友達になりましょうか。」



そう言ってゆいかさんは彼女に微笑んだ。



「・・・ぇ。」




戸惑う香坂は、後ろの奴らとゆいかさんを交互に見ていたが、覚悟を決めたように、ゆいかさんに微笑んだ。



「はいっ。ヨロシク、ゆいかさん。」



「じゃぁ、敬語は無しですね。咲さん?」



「そう言うゆいかさんこそ!」





『そこ!静かに!』




教授の注意に、ゆいかさんと香坂が目を併せて笑いあった。



講義が終わって、昼食時になった。



「咲さん、お昼一緒しない?」



「はい・・・じゃなくて、うん。」



「じゃぁ、行こっか。」



連れだって歩き出す俺たちに、さっきの女が詰め寄ってくる。



「待ちなさいよ!」



明里を冷たい目で見下ろすと、ゆいかさんは口を開いた。



「友人とお昼を食べに行くんです。・・・着いてこないで。」




低い声で言い放ったゆいかさんに怯む奴らを置いて、講堂を後にした。



カフェを目指して歩くゆいかさんは、携帯を手にして耳に当てる。




「・・・あ、奏?今からカフェに来れる?」



「・・・ん。やらかしちゃった。・・・ん。」



「うん。そう、カフェ。お願い・・・っっ、早く来て。」




最後、切なく言ったゆいかさんの声を聞いて、やはり無理をしていたのだと胸が痛んだ。



彼女の安息の場所は先代の腕の中だけだ。



そんな彼女に寂しさを感じつつも、護衛としてカフェまでの警戒は怠らない。



俺たちをつけてきている奴らを撒きつつ、カフェへ2人を誘導する。



カフェのあの別室は場所がバレないように、細心の注意を払っているから。



あと10分もすれば先代が来るだろう。



ゆいかさんのために、最短・最速で。



俺にもそんな女がいればな、なんて、洋子の顔が浮かんだ自分を嘲笑った。

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